60th meeting
「伝統」
Core Talk Cafe meeting

テーマ選択の背景

運営内で五周年を記念するようなテーマを検討していたところ、コアトークカフェもそろそろ「伝統」をつくるような局面に立っているんだろうかという話になり、そもそも伝統ってなんだろう、というところからテーマが決定しました。
   

当日の様子

今回のテーマ「伝統」について、まず「伝統と聞いて思い浮かべるものは?」という質問にお一人ずつ答えていただく形でスタートしました。儀式や生活様式などの文化、代替わりを経ながら続くもの、社風校風、建築や工芸品をつくる技術、伝統の味のレシピ、天皇制、伝統の一戦、ルネッサンスのような芸術上の伝統と革新の話などなど、たくさんのキーワードを出していただきました。
新陳代謝のように木造建築の建設と取り壊しを繰り返す日本と石造りの頑丈な建物を何百年も守り続けるヨーロッパの対比の話をきっかけに、「伝統の在り方は風土などの環境に大きく左右されるのでは」という考察が出ました。
ここから、「伝統と物質」の関係に関心が集まります。一方で、伝統は物質の要素だけではなく、「魂が宿る」ような部分があるのでは、という指摘もなされました。「魂」という言葉にピンとくる人とこない人がそれぞれいるなか、議論は「伝統の継承」に移ってゆきます。「伝統だからというだけで守るべきなのか」という問いや、生物の適者生存のように「結果的に残ったものが伝統と呼ばれるのでは」とか、反対に「残そうという意志によってつくられるのでは」といった模索が続きました。
ここで、「伝統はつくられるもの」であるということを、政治的な意味で検証する流れが出てきます。「江戸しぐさ」などの例が挙げられ、その内実の如何よりも「伝統であるとプロモートされたもの」が伝統としてありがたがられてしまうことの危険性が話題となりました。また、伝統をありがたがる意識には、伝統は先人達がそれを重視し続けてきたものなので、先人への敬意と地続きの感情があるのでは、という話も出ます。同時に、伝統の内容に対する価値判断を自分でせず、先人の判断にのっかるだけの思考停止という側面もあるのでは、という指摘もありました。伝統にまつわる「正統性」や「起源」という言葉には、人を従わせるような力があるということも考慮されます。また、伝統を継ぐことには、先人たちと同じ共同体に属するという意味合いがあることが指摘され、「伝統の内と外」、さらに「伝統の担い手」の話へと議論は進みました。伝統の内部には、伝統を無批判に守り続ける人と、伝統を吟味しときに改良して新しい伝統をつくる人、というふたつの在り方が提示されます。前者は「保存」に傾注する人、後者は「理想」を追求する人とも言い換えられます。後者の方が伝統への貢献度が高そうに見えつつも、やはり継続させるという意味では前者が必要、ということで、最終的には両者どちらも伝統にとって必要というところに落ち着きましたが、時代によって保存することと変化することの重要性の比重が変わるのでは、という話も出ました。ある変化を伝統の内と見るか外と見るかの判断は誰がしているのかなど、また「内と外」の話に戻りつつ、お時間となりました。
   
Core Talk Cafe digest

Digest of digest

・伝統は物質的なもの?精神的なものに?
・伝統はつくられたもの?
・伝統には価値があるのか
・伝統と共同体はどう関係する?

Book Guide

『古寺巡礼』 和辻哲郎『古寺巡礼』 (岩波文庫)
和辻哲郎
岩波文庫

by G-Tools